夜間飛行

丸をください

華金メルトダウン

わたしのお家は文化資本がとぼしい。

 

母がエクセルと日商簿記のテキスト以外を、父が「人は話し方が9割」的な、それに類する感じの本やビジネス書以外の、例えば小説とか古典とか、そういった心の栄養になりそうな本を読んでいるところを見たためしがない(もちろん、忙しいというのもとてもあると思うが…)。妹が父親に買わせるだけ買わせた新訳の源氏物語も、紐の栞がずっと前のほうで止まっている。わたしは与謝野晶子の源氏を青空文庫でなんとか読んだというのに、買ってもらえるとは羨ましい。つまり読書家はわたししかいないのだが、これも転校先で友達ができなくて、図書館に逃げ場を求めていたという悲しい理由ゆえなのである。

 

美術館も行かないし、音楽にも興味がなさそうだし、映画も観ない。買い物はイオン。実はミュージカルも行ったことがない。アニーとか、文化・経済資本が高いご家庭では定番らしいけれど。マンガ・アニメ・ゲームが嫌いで、これらのカルチャーがもはやいにしえの概念での「オタク」だけのものではないことにも気づいていない。

 

つまるところは文化資本が低い。うっかり東京の私文にはいってしまったせいで「もしかして我が家、文化資本が低いのでは…?」となっている。上には上がいて、下には下がいるのが世の常だが、知らなければそんなことも気が付かない。文化資本とは文化に投資できるだけの経済的余裕と文化の存在を知っていることで成立していると思っているので、お金がたくさん稼げる仕事に就きたい。

(ここまで前置き)

 

こーんなに文化資本がとぼしいのに、なんとなく「きちんとしている家庭」「育ちのいい子」みたいな顔をしている。門限がある。外食・外泊は事前申告必須。誰とどこにいるのかを説明せねばならぬ。(外食の申告必須なのは夕ご飯を作る分量を決めるためなので理に適っていると思う)家が学校からも自宅の最寄り駅からも遠いので夜毎に必死こいて帰宅している。なんと駅徒歩30分である。23区に住んでる人なら卒倒しそうな距離だ。たかが15分で遠いよ~とかいう人を見ては、ぬるいな…とひそかに思っている。(ほんとのところを言うと、ひじょ~にうらやましい。わたしも駅チカの家に住みたい)。

 

そんな感じなので10時台の電車に乗って帰宅することが多いのだが、先日他人のお金でおいしい焼き肉を食べる素晴らしい会に参加した折、珍しく11時台の電車に乗ることとなった。わたしは夜遅くまで遊びたいくせに泥酔者がどうしてもダメなたちなので戦々恐々である。もともとお酒は決して弱くないし(だからといって強くもないのだが)、門限があるし、帰らなくていい日も早々におねむになってしまう人間である。なぜそこまでべろんべろんになれるのかあまり理解できないタチなのだ。

 

(わたし以外は焼き肉後になぜか花火をしたらしいし、そのあと誰かのお家で桃鉄やってたらしい、おれも自由に生きたい)

 

さすがは花の金曜日、さっそく中央線の優先席を占領して寝そべりながらお酒を飲んでいる紳士を観測。さすがである。他人のお金なのをいいことに結構飲んだのだが、一瞬で酔いがさめる。叫ぶな、お願いだから電車で奇声を上げるんじゃない。寝転ぶな。ここは中央線だ。ライブハウスでもあなたの家でもない。電車で寝そべるな、お前んちに駅を作るぞ。でも駅徒歩0分の利便性抜群超好立地だ、もし始発駅だったら座り放題だし、案外悪くないかもしれない。地価も上がるだろう。

 

乗り換え駅。明らかにおかしい角度で立ちながら電車を待つサラリーマンさん。その姿はさながらピサの斜塔かマイケルジャクソンか。座りなよ。ベンチ空いてるよ。完璧に酔いがさめているので、まともじゃなさそうな人が周囲にいないか最大の警戒をしながら電車に乗ります。幸いみな平常運転っぽい方々です。後は様子のおかしい人が乗り込んでこないことを祈るばかり。

 

この辺りで酒って普通に害悪では?と考え始める。きわめて真面目そうなサラリーマンをピサの斜塔にさせる飲料だ。大麻合法化には反対だが、大麻推進論者の方々の「お酒だって依存性があるじゃないか!それを大麻だけ制限するのはおかしい!」的な主張をやや理解する。薬物と大差ないのかもしれない。酒精。

 

華金は案外学生っぽい人は19時くらいと同じ感じで、社会人のほうが酔っぱらってるように見えた。まともそうな人の近くを陣取ります。自由な大学生は、夜通し遊ぶから、日付が変わる前の電車には乗らないのだろうか。多分そうだ。この前の土曜日に旅行に行くのに朝早い(と言っても6時代、決して夜明けすぐではない)電車に乗ったら、ふらっふらのべろんべろんの結構かっこいい?同い年くらいの男の子がホームにいた。どんなにかっこよくても、あんなざまになってしまっては、だめだ。100年の恋も冷めかねない。いくら学生とはいえ大人なのだから、お酒はきれいにのまないといけない。もしわたしの好きなひとが、あんなになって、朝方の駅でふらふらしてたら確実に嫌いになる。

 

遅い時間の電車に乗ったことをかなり後悔しながら、音楽を聴きます。なんかうるさい曲聞いてたと思う。さきほど酔いは完全にさめたと言いましたが、そんなにアルコールは早急に分解されるものではありません。いい加減どうでもよくなってきて、リズムに合わせてわたしのからだは揺れます。小さい動きではありますが、やや音楽に乗っています。横揺れです。もう止まりません。

 

やばそうな人を必死になって遠ざけていた人間が、一番挙動不審だったのです。