夜間飛行

丸をください

歌舞伎町AM5:00

この世の終わりとは、早朝の歌舞伎町の状態を指すのではないでしょうか。

ゴミが落ちまくっている汚すぎる道、道端に積まれたゴミ袋の間を通り抜ける太った鼠、鳩、座り込む酔っ払い、と酔っ払いに水を飲ませる良心的な子、お疲れ気味のホストの皆さん、まだ営業してるお店から響く、調子はずれな歌。外はもう明るくなり始めているのに、まだ真夜中を引きずっている街。この世が終わって新しい世界が始まっているのに、いつまでも旧世界を彷徨う亡者の姿です。この街は夜明けが日暮れ時に見えるほど、朝が終末を感じさせます。

 

8月某日、わたしはよれよれの格好で朝5時の歌舞伎町を散歩しておりました。半日着用したカラコンで眼球は限界を迎え、アイラインは片方消失しもう片方は滲み、眠い目を無理やり開け、髪の毛は湿気にやられてごわごわ、一晩中飲んでアルコールの抜けない頭は思うように働いてくれません。こんなに最悪な歌舞伎町にも平等に訪れる、朝の、やや冷涼な気配には似つかわしくないよれよれの、夜を引きずった姿でございます。

 

意外と箱入り娘で、しかも21時には帰りたい人なので、実は朝の歌舞伎町を歩いたのはこれが初めてです。もっと言えば、最近は原宿の人間になったつもりでいたのでこの街に来ること自体も久しぶりでした。4月の大久保公園でケバブ食べてたら立ちんぼに間違えられたとき以来。

 

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まーた立ちんぼに間違えられてしまいました。しかも今度は大久保公園ではなく東宝シネマズ前。夜の8時とか9時頃の話です。この街では立っているだけで、街娼だと間違われてしまいます。間近でじっと品定めするおじさんの視線が気色の悪いこと悪いこと。そのおじさんがうちの近所で犬の散歩でもしてそうな普通の、どこにでもいるおじさんなのです。大久保公園に屯する、どこかつるりとした質感の脂肪質のおじさんも気持ち悪いですが、こういうありきたりなおじさんも買春するのか~というのもなかなか生々しくて気持ち悪いですね。

 

でも、どうやらわたしもストリート・ガール的な風情を醸し出しているのではないか、という指摘を受けました。ごもっともです。ミニスカート、大きなカバン、あてどなく人待ち顔で(だって本当に人を待っていたのだもの)立っていて、というのは確かにそれらしい感じに見えなくもない。普段使わない青コン入れて、涙袋コンシーラーを駆使した、個人的には最先端の技術で顔面を塗装し、久しぶりの夜遊びに気合を入れて準備した、6人目のnew jeansのつもりでいたので(多分ニュジの皆様方は涙袋そんなに作ってないけど)、心外な話です。

 

夜の歌舞伎町ももちろんこの世の終わりのような場所ですが、朝の終わり具合とは質が違うのです。夜は夜で、シネシティ広場には血まみれのルーズソックスをはじめとした諸々が散乱して、ガルバの客引きがたくさんいて、大久保公園にはおじさんが女の子たちを物色していて、ぜったいおいしくない居酒屋に連れていきそうな客引きがいて、様々な騒音と光が氾濫していて、といった具合なのです。でもこれはこれで、一般社会との比較では無秩序で終わっている場所ですが、この街なりの秩序や生命力が感じられるのです。朝の、取り残された、滅亡後の世界みたいな静けさとは別物なのです。

 

朝に話を戻しましょう。前の夜から、ずっと地下のお店で飲んでいました。歌舞伎町を歩いて早3年が経ちましたが、まだまだ知らない場所ばかりです。そこで薄い、薄いハイボールをおじさんかよと言われながらも飲み続けておりました。先ほど申し上げた通りその日のコンセプトは6人目のnew jeansなのにおのののかに似てると言われてしまいました。酔っ払いの目は節穴なのでしょうか。別にわたしはおのののか氏とは全く似ておりません。強いて言うなら丸顔なくらいです。

 

地下なので外の様子もわかりません。きっとこの建物で火事があっても、何も知らないままで焼死しそうです。途中で抜け出して、夜じゅう営業してる珈琲貴族エジンバラでも行ってみようかと思っていたのですが、思ったより話が弾んでしまい、夜明けまでここで過ごすことに相成りました。

 

5時に外に出ましたが、一瞬朝ではなくて夕方なのではないかと思ったのです。舞浜にあるイクスピアリを、ご存知でしょうか。もう10年は行っていないので今はどうだか知らないのですが、イクスピアリの内部はいつでも夕暮れなのです。紫色の空が天井いっぱいに広がっていて、電飾が煌々と光っていて、時間の感覚をなくしてしまいそう。朝が永遠に来ないような気がしてくる暗い雑居ビルの地下から、地上に出たらやや薄暗くて、ホストクラブのネオンが点っていて、その光量の差と、空とネオンの組み合わせの夕暮れ時のような、人工物っぽい取り合わせにイクスピアリの作り物の夕方を感じたのです。

 

地元に戻ってくる頃には7時、すっかり朝になってしまいました。普段なら目が覚めるころです。地元の駅ではこれから仕事や学校に向かう、ぱりっと身支度の整った人がたくさん、歩いています。東京へ向かうその流れに逆らいながら、地元の朝がこんなにまぶしくて、正しくて、清潔なものだったことに気づきました。これから一日が始まる人たちの中で、アイラインの滲んだ、さわやかな朝には不似合いの、一目で遊んできた帰りとわかる姿をさらしながら、早く家に帰って寝たいということしか考えられず、もう一晩中お酒を飲むことはしまいと、とりあえず誓ったのです。