夜間飛行

丸をください

知らぬ間に事故物件に行っていた話

※ちょっと後味が悪い。

 

実は池袋が苦手です。

 

埼玉で暮らしているので、池袋=ださいたまの植民地だと思っておられる東京人の皆々様から往々にして埼玉県民は池袋で遊ぶんでしょ?とのご下問を賜るのですが、冗談じゃねぇ。こちとら最凶線ユーザーだが?池袋駅の次は新宿、さらにその次は渋谷なのでわざわざ池袋に降りる必要がないのです。

 

わたしが愛してやまないアンジェリーナは日本橋と池袋にしか常設店が無いので、どうしてもアンジェリーナの歯が溶けそうなモンブランを食べたい時に仕方なく行くくらい。

 

空気が合わないのだ。歌舞伎町は全く平気な顔してふらふら歩けるのだが、池袋の北側あたりはちょっと厳しい。一回行ってみたことがあるけど、もういいかな~のお気持ち。立教大学がある辺りは大丈夫だけれど、北側以外もあまり好きではない。相性が悪い感じがする。

 

ちなみにわたしはスピリチュアルもオカルトもあまり深入りしたくないタイプだし、霊感もない。暇さえあれば山に登っている気がする友達の山での心霊体験や、部室で寝ていたらOBたちの霊に取り巻かれた(?)同期の話に肝を冷やしているくらい。(というか我々のサークルはできて60年くらいなので、OBの多くはまだご存命であろう)この場所が好きか嫌いか、くらいの感覚くらいしか持ち合わせていない。

 

さっき歌舞伎町は平気だと言った。それは間違いない。そもそも街全体が大島てる案件なのでいちいち気にしていられない。そしてこの街は生者のパワーが強い。ありとあらゆる欲望をめぐる生者のエネルギーが負に飲み込まれてもおかしくないような場所をなんとか生きる人間の場所にしている感じ。(たまに負に引き込まれる方はいらっしゃるようであるが)

 

そして歌舞伎町は碁盤の目状の街である。とにかく道を真っ直ぐ歩けばどこかしらの大通りにたどり着く。新宿駅に、明治通りに、靖国通りに、職安通りに。その地形が混沌の集積たる一丁目を、陰気になりがちなラブホ街である二丁目を平気で歩ける場所にしている。日常と地続きの透明性があるのだ。歌舞伎町を交差する花道通り、区役所通りの見通しの良さが街を明るくしている。その門戸の低さが昨今のトー横キッズを呼んだのかもしれないが…

 

これが渋谷円山町になると、起伏の多い迷路のような街でどこを歩いているのか把握できなくなる。その異世界具合がさまようカップルにはいいのかもしれないが、ソロの散歩人間にとってはただの迷宮、ラビリンスである。自分の居場所が分からなくなって、とりあえず歩いていると急に知っている場所に出たり、見立てと全く違う場所にいたりする。円山町の文化村のほうから入る道があり、入ってすぐにテイクアウト500円のピザを売る店がある。店内でも食べられるが、テイクアウトの安さがよい。結構大きくておいしいので散歩のおともにお勧めしたい。これを食べながらホテルに吸い込まれるカップルやクラブに吸い込まれるパリピを観察していたことがある。悪趣味である。

 

以前サークルの先輩に円山町のどこかにある、ログハウスみたいな?地下室みたいな?開拓時代のアメリカの西部みたいな?謎建築の、音楽にこだわりがありそうなお店に連れて行ってもらったことがあるのだが、迷路なのでどこにあるのか忘れてしまった。

 

もちろん街全体が大島てる案件なので、ここはちょっと気持ち悪いなぁ…という場所はあるにはある。大変長くなってしまったがここからが本題である。

 

昨年の夏だったかしら、サークルの集まりで歌舞伎町の外れの貸会議室を借りた。オンボロマンションの一室をとある会社が持っていて、その部屋を貸し出しているといった感じらしい。この会社も詳細は何せ去年の夏なので忘れてしまったが、なんだか胡散臭そうなビジネスをやっている。

 

そして部屋がクソぼろい。そして信じられないくらい狭い。実家住まいのわたしの部屋(6畳)よりも下手したら狭い。さらにちょっと見ただけだが、風呂(というかシャワールーム)が汚い。貸会議室なのでシャワーなんぞどうでもいいのだが、部屋全体が「とにかく古くて汚い」のだ。多少古びていてもうまく手入れすれば快適な部屋になるの思うのだが、その努力が全く感じられない。この段階からちょっと嫌な感じがする。

 

極めつけはスリッパである。土足はダメよ、備え付けのスリッパをはいてね、とある。そのスリッパが、おばあちゃんちにもないであろうレベルの時代物で、しかも叩けばいくらでもダニが出てきそうな勢いで汚い。土足のほうがよっぽどマシ。思い出しながら泣きたくなってきた。

 

まあまあ高い(10何階)場所の部屋で、窓がある。下は駐車場だ。窓は想像通り一枚ガラスの貧相な感じ。複層ガラスなんてものはない。窓を開けると、目下に駐車場が見える。風が吹く。新宿の、大して美しくもない街並みが見える。8月。暑い季節だが、吹いてくる風は涼しい。

 

ちょっと自分でもびっくりするのだが、下の駐車場に吸い込まれそうな感じがしたのを覚えている。格子や柵やベランダとか生垣とか、体と地面を遮るものが一切ない窓。これは落ちたらひとたまりもなさそうだ。怖い。当たり前のように生きているが、死はすぐそこにある。そんな気がする窓。サークルの元気なメンバーがたくさんいたので平気だったし、その部屋は生きている人間、明日がある人間たちのものだったが、とても怖かった。

 

で、タイトルである。苦手なくせに大島てるを見てしまうのがわたしの悪い癖なのだが、そのマンションに炎のマーク。どなたかがお亡くなりになっていたらしい。わたしはあの窓を思い出す。死に向かって開いていた窓。

 

 

(余談)

書きながらややバッドに入ってしまいました。後味があまりにも悪すぎる。どうしましょう。楽しいことでも書きましょうかね。

 

最近おいしい紅茶を買いました。大阪の北浜レトロというカフェのもの。名前は「眠れる森の美女」。紅茶に烏龍茶と何らかのお花がブレンドされていて、お湯を注ぐと上品な甘い香りが広がります。超☆甘党なので紅茶には信じられないくらいたっぷりお砂糖をいれるタイプなのですが(ガムシロップが無い時はアイスティーにグラニュー糖を入れる。大量の溶け残りをざりざりさせながら飲むのが好き)、これは無糖がよろしい。この紅茶でアンジェリーナのモンブランを食べたい。この前行ったときにはオリジナルサイズという本場パリの標準サイズが売り切れで、日本人の胃袋に合わせたらしい小さめサイズしか置いてなかった。味は変わらないのだけど、少々「モンブランを食べる」という気概に欠けたサイズだと内心思っています。