夜間飛行

丸をください

女の子に生まれて

自分は心身共に女性である。女に生まれたことを私は肯定している。多少の不満というか疑問のような物はあるが基本的に女に生まれて良かったと思っている。まあ、自分のどう足掻いても変えられない根幹的な部分というのは受け入れていかないと生きていくのが辛いだけではあるが。今日書きたいのはその疑問の様なもののこと。

 
この話は私がこの世に生まれ落ちた日の事から遡らなくてはいけない。母曰く、私が生まれて開口一番、祖父は母に「次は男の子な」と言い放ったらしい。普通、少なくとも私の常識の範囲内では棺桶に片足突っ込みながら全力で子を生んだすべてのお母さんと言うのは無条件に祝福されるべきではないのか。「健康な子が生まれたよ、おめでとう」だとか「お母さんも無事で本当に良かった」だとか「私達が支えるからゆっくり休んでね」等々の声を掛けられ、労られるべきではないのか。そもそも素朴な疑問なのだが次は男の子って念じれば男の子は生まれんの?訳がわからない。私は長子で、下には妹しかいないのだが、もし弟だったら弟ばかり甘やかされて私はいづれ嫁いで家を出るものとして空気の様に扱われていたのではないかと想像してしまう。一応言っておくがうちは後継が必要な社長一族でもないし華族士族の血を引いている訳では無さそうだし受け継ぐべき財産がある資産家や地主ではない。超弩級の一般庶民だ。あと、女の子が誕生した時の定番のセリフに「老後の面倒を見てくれるから女の子でよかったね」というものがあるが、これもいかがなものかと思う。時代柄仕方がないのかも知れないが。
 
生まれたら生まれたで祖父母は私を全力で甘やかしてくれたのだが、事あるごとに「女の子だから」という呪いの様なものを掛けられてきた。私は中高大とわざわざ3回も受験するという大変回りくどく非効率な進路選択をしてきたがそのたびに女の子だから中学受験なんてしなくても、だとか高校は高望みしなくても、だとか短大でいいんじゃない、だとかこっち(祖父母が住んでる県)の大学に入って戻っておいで、と言われ続けている。女はどうせ結婚して家庭に入るから学歴は要らない、というのが祖父母や親戚の見解らしい。しかしこのご時世妻を専業主婦にしてきちんと家族を養える旦那、というのも少ないしその様な男性は無教養な田舎娘ではなく知的な洗練された女性と結婚するのではないか。知らんが。兎も角今の時代は男も女もどちらでもなくても力を合わせて全力で働いて行かないと食べていけないのではないか。そもそも学歴や資格を持たずに家庭に入ると経済的に結婚相手に生活の全てを握られてしまう。相手に依存しないと生きていけないのは困る。私は心身の独立を尊んでいる。祖父母はじめ親戚は進路が決まったら決まったで祝ってはくれるが、少々相容れない部分がある。いま通っている(オンラインだが)大学も知名度は低いがまあまあ程度の良い所、むしろ私大的にはそこそこ良い?所なのに東京の大学、という事で少し嫌な顔をされた。やはり地元の大学に行って欲しかったらしい。地元ではないがそこまで偏差値の高くない大学にスポーツ推薦で入った従兄の方が喜ばれていた。そこの知名度は全国区なので結局知名度かよ、というのもある。従兄たちのことを「金の卵」と形容して居るあたり価値観が古い。
 
うちは北関東だがこの呪いの強さは家庭や地域によって差がありそうだ。高校同期とこの話になった時、東北にルーツがある子は弟ばかり大事にされる事を悲しんでいた。私だってがんばっているのに、弟よりもできているのに、と。実際彼女は大変な努力家でとても優秀である。彼女の祖父母宅では食卓は男女別で女性は忙しく男性の豪華な食卓の世話に立ち働いているという。彼女と私は女の子である不利益を励まし合っていた。逆に千葉の子は私や東北の子の話が信じられない、と言っていた。親戚のおじさん達も揃って食事の準備をするらしい。うちでは年末の餅つきの様な力仕事すら女性の役目で、祖母、伯母、母、私でもち米を蒸したり餅つき機を操作したり出来た餅を捏ねたりしているのである。その間祖父、伯父、従兄2人、父は寝転んで早速餅を食べたり駅伝を見たりしている。さすがの祖母も疲れたらしく餅つきイベントは終了した。正月やお盆で集まった時も男性陣は何にもしないで食べてばかりだ。私は若い女の子だから、とお酌をさせられる。意味不明。酒ぐらい自分で注げ。まだ小さい妹には将来絶対にやらせたくない。一番残念なのは日頃私に男女平等を説く母が率先してお酌をさせようとする事だが。母方の祖父母は私の進路ややりたい事を全部応援してくれるので地域や年代で意識の差がある、とは一概に言えない。
 
ここまでされると外孫の従兄が内孫だったらよかったと祖父母は思っているのではないかとすら思えてくる。散々日頃の疑問の様なものをつらつらと書き連ねておいて誤解を招いてしまうかも知れないが私は祖父母や親戚が好きだ。そこは間違えないで欲しい。この価値観の中で育ち、年を重ねてきた人の考えを変えようとは私は思っていない。また、父の仕事の都合で出身地を去り、転居先で中学受験をしたり教育熱心な環境の中にいれてよかったと思っている。もしずっと祖父母達の町で暮らしていたら呪いに気付くことすらなく、一切の疑問を抱かずにいただろう。
 
願わくば生まれたそばから失望され、「女の子だから」と呪いを掛けられて育つ子がこれ以上増えませんように。合掌。