夜間飛行

丸をください

東口を出たら

県民、というか市民にしか通じないかもしれないのだが、自分は大宮駅東口周辺の雰囲気が好きだ。首都圏最北のターミナル駅はどこか北関東の匂いがする。そして賑わいの中に底なしの暗闇がある。旧い街らしい場末がある。神社がある。大栄橋はさしずめ異界との結界か。人間の情念と人間の及ばぬ力が混じっている。

 

東口をでで左手へまっすぐ、大栄橋を過ぎるとラビット薬局、そして北銀座と呼ばれる風俗街がある。住宅街の中に忽然とたたずむソープランド群。用がないため昼間しか通ったことが無いが異様である。風営法かなにかの法律でこのような業態の店舗は新築ができないのでこのまま古びていくのだろうか。赤線の名残がこの地の古さを際立たせている。

 

東口から大栄橋に行きつくまでの間は歩行者天国になっている。東口周辺で一番にぎわっている。ドン・キホーテやゲームセンターがあり、高校生も多い。この通り(銀座通り)からは「すずらん通り」「一番街」のようなアーケードの細道が伸びており、居酒屋などの飲食店が軒を連ねる。これらの路地は旧中山道に通じている。昭和感満載の風情がある。

 

東口からまっすぐ目抜き通りを行くと、地下道へ通じる階段がある。実は怖くて地下に行ったことが無い。興味はあるのだが。使っている人は見たことがない。どうやらこの地下道はかつてあったデパートの名残であり、今は眼鏡屋さん一軒のみが地下街で営業しているらしい。廃墟的な雰囲気が気になって仕方がない。

 

東口から銀座通りを右手に行くと南銀座という繁華街。キャバクラやら居酒屋が立ち並び、夕方のだいぶ早い時間から黒服のお兄様方が立っている。袋小路にはこちらも昭和の空気を残しているスナックが二階建ての長屋のような風情で並んでいる。昔は映画館だったような蔦に覆われた建物がある。かと思えば木造の古民家もある。南銀座のはずれにはラブホテルがあり、その前を通る時にそこから出てくる人がいると人間の生活、のようなものを考えさせられる。

 

南銀座を抜けると線路沿いの壁に子どもが描いたであろう少し不気味な絵が描かれている。壁画の先はいよいよ新都心である。新都心は南銀座の猥雑さとは打って変わって埼玉で一番洗練された綺麗な街だ。冬には青いイルミネーションが燈り、ショッピングモールはいつもにぎわっている。家族連れも多い。真新しい高層ビルが林立する。私はこの差に眩暈を覚える。

 

新都心には氷川参道の入り口がある。この参道はいつでも大変清らかな空気が流れている。先述の東口から延びる目抜き通りの先は参道に通じている。背の高い木が並び、大宮駅周辺の混雑からは別世界の呈。旧い街には場末と神社という異界がある。

 

自分は東口に九龍城的な何かを感じてしまうのである。戦後の風景、今の日本の原風景が大宮駅東口には残っているのではないだろうか。大宮にお越しの際はどうぞそのような気配を感じ取って欲しい。