夜間飛行

丸をください

東京に汚染されている

悪趣味なので、何かに凝るほどにどんどんセンスが変な方向に磨かれていきます。大抵の女子大生というものは、東京に磨かれて、芋から垢抜けた美人に成長します。わたしは残念ながら洗練された女になれませんでした。磨かれるどころか、東京でいろんなものを見て汚染されました。ただの芋のほうがマシ。ロリィタを着て、着物を着て、前髪はぱっつんだし、香水はシプレが好きだし、ブランドのバッグとか持ってません。おとなしくスナイデルを着て、ミスディオールブルーミングブーケをつけた前髪の薄い、ケイトスペードのバッグ持ったスタバでバイトしながらアナウンススクールに通う女子大生になるべきだったかしら。

 

そんな女子大生になったら、体育会系の部活に入ってるさわやかな陽キャと付き合って、友達の誕生日は夜景のきれいなホテルの壁中にバルーンを飾ってお祝いして、総合商社に一般職で入って、学生時代から付き合ってる陽キャと結婚して、豊洲のタワマンに住むんだ。婚約指輪はハリーウィンストンで買ってもらうんだ。式場はリッツカールトンにしましょう。子供は幼稚園からエスカレーター式の私立に入れるんだ。実際のわたしはchatGPTのせいで消滅しそうな仕事に就く予定だし(でもどうしてもやりたい仕事なの)、さわやか陽キャとは無縁だし、タワマンはこのままだと将来老朽化・インナーシティ化して、今日の団地みたいな立ち位置になると思っているから買わないし、多分左手の薬指に指輪をはめる日も来ません。

 

基本的にシンプルが苦手です。Tシャツにジーンズという、シンプルイズベスト、これが似合う人が結局一番美人、みたいなのは唾棄しております。ユニクロで服が買えません。ジャカードが好き、ゴブランが好き、リバティが好き、刺繍が好き、レースが好き、フリルが好き。大正ロマン風の、大柄が入った毒々しい色味の浴衣を何着も持っています。社会人になったら何を着ればいいのでしょう。

 

中継で見た戴冠式の黄金の馬車の悪趣味さに、豪華の果てにある悪趣味さに、うっとりしてしまいます。やはり王室ならこれくらい、もう民衆があっけにとられるくらい派手でなくては。庶民の王室批判なんてどこ吹く風、というスタンスで万事ド派手にやってほしい。成金の悪趣味さとは対極にある、エレガンスとゴージャスを極めた挙句の悪趣味、それこそが王室の存在意義でしょう。マリー・アントワネットが好きです。ユニクロに欲しい服はありません、が基本姿勢ですが、この前母親の買い物についていったら、ソフィア・コッポラのアントワネットのプリントが入ったTシャツがあって、つい買ってしまいました。さて、暑くなってきたのでTシャツの出番もそろそろかな、と街を歩いていたらわたしが持っているのと同じものを着ている人と何人もすれ違います。街で偶然、同じ服を着た人を見つけてしまった時の気恥ずかしさは格別です。ユニクロは着るのが難しいです。

 

わたしは高校時代、世界史の先生が大好きで大好きで仕方がありませんでした。好きと言っても、どう考えても女子高で頭が少々おかしくなっているだけなんですけれども。先生への愛は成績で表現するしかありません。成績が上がって、たくさん合格実績を作れば先生のボーナスが上がるかも、とわたしは来る日も来る日もせっせと受験勉強に励みました。この前、受験生の弟を持つ友達に、この時期何やってたか聞かれましたが、当たり障りのないことしか言えませんでした。まさか「不純なモチベーションが一番よ♡」なんて言えるはずありませんもの。

 

これは懺悔になりますが、当時の彼氏に、世界史の先生が好き、とかなんとか言った覚えがあります。マジごめん。本当に刺されそうだけど、でも絶対このブログは知らないだろうしわたしのことなんて忘れてるだろうから書くけど、あんまり彼のことは好きじゃなかったのかもしれないです。面白い、唯一無二、かけがえのない、誰よりも話のわかる、本当に、わたしの人生で二度と巡り合うことのなさそうな、波長の合う最高の友人ではありましたが、恋人としては死ぬほど退屈で、指先に触れられることさえ嫌でした。今、超エリートコースを着々と歩んでいるらしい彼の話が話題になるたびに、逃がした魚は大きい、と友人たちにからかわれますが、そういう問題ではない。ほんとうにそういう問題ではない。弱冠15歳、loveとlikeの違いが判るのには少々幼すぎた模様です。でも、人は失敗してじたばたすればするだけ、強く優しく賢い大人になれるはずです。(開き直ってるだけ??)

 

話がそれましたが、母はこの、世界史の先生タイプの男性がいまだに好みだと思っているようです。まじめで、ひょろっとした、ほほえみの優しい、外見に無頓着なメガネ。なので、テレビにそれっぽい人が写ると、そんな感じの人とすれ違うと、ほら、あなたの好きそうな人がいるよ!と言ってきます。お母さんごめんなさい、わたしは東京に汚染されてしまったので、まじめが一番タイプが好みではなくなってしまいました。もうこういう人は好きじゃないの、と言ったら悲しい顔をされました。妹は貢ぎ体質、彼氏に夢中♡みたいな人間になる才能がまだ中学生なのに見え隠れしているので、せめてわたしには、名より実を取る、堅実な相手を見つけてほしかったのだと思います。

 

趣味でとっている般教に、ちょっとかっこいいな~と思っていた人がいます。襟足が長い黒髪、軟骨に空いたピアス、メタルフレームの丸眼鏡、愚かなミーハーなので見た目から入るタイプです。完璧に東京に汚染されています。授業を聞かないで何をしているのだろう、と思ったら机の下でこっそり麻雀で遊んでいます。完全にツボです。彼を斜め後ろの席から見つけたわたしは、モーパッサンの講義そっちのけで萌え散らかしていました。自分も麻雀を覚えよう、とひそかに決意します。後ろ姿は完璧です。これから般教に行くのが楽しくなるだろうな~と思っていたのですが、後ろ姿という所に落とし穴があります。問題は前面です。整ってはいますが、なんだか眠そうな顔をしています。もっと、しゃきっとした、緊迫感のある顔だと思っていたので、眠たげな目は解釈違いです。一重瞼のぎゅっときつい目許が涼し気で、知的で、美しいひとでなければいけません。もう履中したい。般教なのにグループ学習とかあるし。(この女、人を勝手に好きになって、勝手に幻滅している。失礼にもほどがある)

 

目は大事です。顔の何よりも大事だと思っています。自分の目は、そこそこ大きくてふた皮目で、この現代社会の規範の中ではそうコンプレックスにはならない目です。でも、つまらない、美しくない目だと思います。自分の目をそのように評価しているので、美しい目をしている人に憧れます。限りなく狂気に近いほど、美しい目をしている人を、ひとり知っています。

 

というか最近、自分はどういう人が好きなのかを考えていました。中身はぶっ飛びカオスだけど根っこは常識人(ここ、とても、とても、とても大事)。外見は長めの黒髪、一重まぶた、鼻が高い人。ここまで考えて、ひろゆき氏の顔がちらつきます。なんだか複雑な気分になり、考えるのをやめました。もう東京に汚染されてるとかされてないとかの次元じゃない気がしてまいりました。わたくしとてアンドロギュノスの末裔、どこかにいるはずの半身を探して果敢に生きてゆきます。東へ西へ!!