夜間飛行

丸をください

好きだった遊び

着物が好きで、まだちゃんと着れる段階にはないのだが帯を買ったり着物に関する本を読んだりしている。タイトルの好きだった遊びとはまさしく着物好きの土台になった遊びだ。小さい頃から和紙の手触りや和風の花柄が好きで、折り紙を買ってもらう時は必ず綺麗な千代紙をねだっていた。生まれつきの好みがあったのかもしれない。

 

それから紆余曲折あって実に想像力豊かな12歳になったのである。この遊びはそれくらいの齢の時に好きだったもの。

 

綺麗な千代紙で着物を折って、別の紙で作った帯を組み合わせる。千代紙を貼って作った美しい箱を衣装持ちのお嬢さまの箪笥に見立て、その中に着物をしまう。着物の模様に季節があることを知ってからは季節ごとの晴れ着に見立てた着物を作るようになった。桜の模様の紅色のものや色とりどりの紅葉が散ったものは想像のお嬢さまがとても大事にしているものだった。

 

帯は千代紙の切れを取っておいて使うこともあったし、和紙を使うこともあった。着物の方も包装紙などを切って作ることもあり、色とりどりの紙を眺めるだけでも楽しかった。いつしか「箪笥」には沢山の着物が増えて、私はお嬢さまのお部屋をもっと大きな箱で作った。たぶん「にっこり」っていう和梨の箱。増えていく美しい模様の着物を眺めて、あたかも自分が衣装持ちのお嬢さまであるかのような気持ちに浸っていた。

 

子どもながらに高価な千代紙と安い千代紙の区別はついていて、高価なものはもったいなくてなかなか使えなかった。今でも沢山残っている。先ほどの晴れ着に使う千代紙は自分が持っていた最高の千代紙で、厚みのある良い紙質で複雑な色調だった。紙質やがらゆきを吟味してよそ行き用や習い事用も作っていたように記憶している。紙質や色が美しくないと思ったものは普段着やもう一つの物語の主人公の着物になった。

 

「白い紙」とひとくちに言っても、白い紙から受ける印象は紙ごとに違う。薄くて滑らかな手触りの紙は女給さんのエプロンに、厚くてどっしりとした紙は花嫁衣装に、と1枚の白い紙から私の想像は止まらなかった。

 

「もう一つの物語の主人公」は貧しい女の子だ。あるいは没落した家の娘。彼女の着物は折れ目が付いていたり古びているものや、あまり綺麗ではない色の紙で作った。ここでいう「綺麗ではない色」というのは灰色や茶色など女の子の着物の色にしては地味な色、という色ではなく色味が単調で安っぽいもののことである。私はお嬢さまを想像するのも貧しい少女を想像するのも楽しんだ。お嬢さまが主人公の時は綺麗な千代紙を存分に使って心を満足させた。貧しい少女が主人公の時は彼女が成り上がるストーリーを作ることや彼女の着物を綺麗に整えることにに注力した。

 

この文章を書きながら、我ながら可憐な遊びをしていたものだと思った。少々特殊な遊びのようだが、着せ替え人形の延長線のような感覚かもしれない。昔の女の子たちも姉様人形なるものを拵えて遊んでいたようなので、いつの時代もこういう遊びは愛され続けるのだろうね。