夜間飛行

丸をください

ロリィタを着た日

わかる?この高揚感。たっぷりのフリルとレースとチュールに包まれる高揚感のことだよ。

 

6歳くらいから憧れにあこがれていたロリィタを着てきた。

「わがままファッションガールズモード」という古のDSのソフトがある。セレクトショップの店長としていろんなブランドの服を仕入れ、客に売りさばく、というゲームだ。6歳女児のわたしはこれに大いにはまり、昨日まで英国テイストなんちゃって制服をメインに売る店だったのに急にチャイナジャケットとギャルブランドのミニワンピを売りはじめ、今までの顧客を困惑させたりして遊んでいたのだ。

 

でね、この甘ロリのブランドがマーブルリリーで、ゴスロリが確かレイヴンキャンドルとかいう名前だった気がするんだけど、6歳女児はこのロリィタによって、この世にはこんなふわふわのふりふりの服が存在することを知ってしまった。折から土曜9時の「デカワンコ」っていう、多部未華子が鼻が利くロリィタの刑事というなかなかキャラの立った役で出てたドラマをやってて、ますますロリィタかわいい!ってなった。

 

当時茨城県北に住んでて、週末のお出かけ先はイオンモール内原(通称・ウチジャス)だった。前書いた気がするけど、イオンモール内原には何でもあった。しかし、ニッチなものは何もなかった。ニッチなものを必要としない人にとっては「なんでもある」イオンモール。残念ながらここにロリィタはなく、6歳女児は母親が買ってくれたユニクロのフリースで生きていたのだ。

(この前久しぶりにイオンモール内原の前を通りかかったのだが、間違いなく前よりも建物が大きくなってる。茨城県民の需要を取り込んで、イオンモール内原は健在だった)

 

mitukonuit.hatenablog.com

 

このころからわたしはかわいい服が着たくて、ことあるごとにメゾピアノとかポンポネットとかの、パステルカラーのフリルが付いた服をねだっていた。しかしながらうちの母親はこの系統の服が嫌いで(多分キツイ性格の同級生の親の、性格と歯並びが悪い娘が着ているから)、わたしの願いもむなしくGAPのパーカーと、GAPのラインストーンが付いたデニムのスカートで小学生してた。この反動で、今は裾にフリルがついているワンピースとか、でかい襟がついた服ばかり着ている。「年相応の落ち着いた服を」と親に言われるが、知ったこっちゃない。

 

今はパーソナルカラーとか見るようになって、(多分、というかどう見ても)ディープオータムのわたしはパステルカラーなんぞ鬼門中の鬼門で、絶対選ばないのだから、パーソナルカラーという概念が存在しない時代に好きなだけ着ておくべきだった。今でも(最近見ないけど)メゾピアノとかシャーリーテンプル着てる小さい子を見ると、うらやましくて胸がぎゅーっとなる。

 

人間死ぬときはやったことで後悔するんじゃなくて、やらなかったことで後悔するらしい。小さい時のことを思い出していると、みんな履いてたビジューが付いたキラキラのサンダル↓(こういうの)

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をわたしだけ買ってもらえなかったこととか、友達と水族館に行く日にどうしてもスカートをはきたいといっても「みんなズボンだよ」と根拠のない説明でズボンを着させられ、結局わたし以外みんなスカートだったこととか(この日の写真がアルバムに残っているが、すこぶる不機嫌そうだ)、ついに買ってもらえなかったたまごっちを妹はすぐに手に入れて、早晩壊してしまったこととか、確かに「できなかったこと」をたくさん覚えている。

 

やはり、やりたいことはやったもの勝ちなのだ。死ぬときにこれもやりたかった、あれもできなかった…と思うのは嫌だ。わたしはもう大人なので、親の好みに合わせる必要もない。

 

前置きが長すぎるけど、こういう気持ちもあり、21歳の自分への誕生日プレゼントと、就活を終わらせ、学期末の課題を全部やったごほうびとしてロリィタを着てきた。世の中にはわたしみたいな人の需要を満たす、ロリィタ体験のお店がある。それぐらいきっと許される。大学のキャリアセンターの人に、「自分にOKを出すことも大事よ」と言われたことがある。OKサインとして着るロリィタだ。

 

感想としては、いろいろあるんだけどひっくるめて「遺影はこれでお願いします」。

 

初めに着たいものをたくさんの衣装の中から選んで、着た後にメイクとヘアセットをやってもらって撮影、といった流れ。わたしは「エリザベスジャンパースカート」なる赤い無地の、レースがこれでもかと縫い付けられたものを選択。たぶん「下妻物語」の観すぎの人たちはこれか、真っ白なワンピースを選ぶと思う。

 

お洋服がとても重い。いい生地をたっぷり使っているのが分かる。パニエをはいて、スカートがふんわりと膨らんだのを見て、本当に、心から感動した。血沸き、肉躍る、そんな思いをしたのはいつぶりだろう。わたしがやりたかったのはこれだ。ここには一般常識とかコスパとか男ウケとかそんなつまらないものは存在しない。バラの模様の飾りも、ブラウスのレースでできた姫袖も、あごひものついたボンネットも、ため息が出るほど美しい。世界にはこんなにきれいなものがあるのか。この世界は思いのほかいい世界だ。店員さんに助けてもらいながら背中の編み上げのひもを締めてもらって完成。歩くたびにスカートがぷかぷか揺れる。最高だ。

 

そのあと、メイクをしてもらったのだけど、このメイク技術がすごかった。目の大きさ2倍になる。わたしはアイライン引くのが苦手で、目じりにしか引けない。なのでまつ毛が生えてる粘膜まで埋めて、目じりも長くしっかりきれいに引いた己の目を見て、目の大きさがとんでもないことになっているのに驚愕した。おまけに濃い紫?のシャドウを三角ラインに入れてもらって、目はますます大きく…自分では再現できない。びっくりしていたら元の目が大きいからよ…とさりげなく褒めてくれる。なんだか申し訳ない気分になった。

 

ここまでくるともう別人である。他撮りだとスタイルの悪さが丸わかり(身長がいつもより低く見え、頭も顔も大きく見える。姿勢が悪いのと、丸顔が強調される色味のメイクと髪型なのが効いている)だが、自撮りだと加工なしでもんのすごいキュートな人間になる。ボルテージ上がりすぎて普段あまり触らないインスタに写真投稿した。ストーリーも上げた。日傘持ってる写真、もしわたしが死んじゃうことがあったら(まだまだ死ねないが)遺影にしてほしい。わたしの遺言は、死に装束の上から一番好きな紫色に大きな牡丹の模様の着物を着せてほしい、骨はダイヤモンドにしてほしい、だったが注文がひとつ増えた。

 

ロリィタは着物に似ているかもしれない。帯を、リボンをぎゅっと締めるときの背筋が伸びる感じ、きれいな布をたっぷり身にまとう幸福感、好きや可愛いの結晶を着る満足感。手間とお金のかかるところ。他者の思惑を差しはさむ余地のない最高の自己満足。

 

本当に幸せな時間だった。ほんの一瞬、わたしを通り過ぎて行っただけのロリィタだが、きれいなもので武装する喜びを味わわせてくれた。どうしてくれよう。