夜間飛行

丸をください

東京の休日

私はバイクで二人乗りすることに尋常じゃない憧れを抱いている。

 

ローマの休日」で主役カップルたちが二人乗りしているシーンがある。おしゃれなイタリアンスクーターのベスパである。「アメリ」のラストシーンもパリを二人乗りで走っている場面だったと記憶している。この映画たちのせいでこの憧れが生み出されているのは間違いない。どちらも最初に見たのは中学生の時だったが、当時はなんだかロマンティックで素敵ね、くらいの認識だった。どのみちヨーロッパの素敵な映画の中の話である。現実はそううまくいくものではないと考えていた。

 

しかし最近は頑張れば免許もとれるしバイクも買えるということに気が付いてしまい、二人乗りを試してみたくて仕方がないのだ。そして現実の二人乗り原付カップル、超絶おしゃれ。中野でクロスカブ、新宿でミントのベスパのタンデムしてるカップルを見かけたが、どちらも絵になっていた。さすが中央線文化圏、と妙なところで感心した。どちらかというと「カップル」よりも「アベック」のほうがふさわしいサブカル風味のおしゃれなふたりに私の目は釘付けだ。私の地元で二人乗りしているのはでっかいビッグスクーターに乗ってるヤンキーか子供を後ろに乗せているお父さんくらいだ。

 

二人乗り原付といえば先ほどの「ローマの休日」式にベスパがイケてるのだろうが、個人的にはスーパーカブでタンデムしたいのだ。ローマにベスパが似合うように、東京にはきっとスーパーカブが似合う。スーパーカブは郵便屋さんの乗り物というイメージが世間的には強いらしいが、私はスーパーカブが好きなのだ。あの昭和感。最高じゃないか。違うかな。まさにアベックの休日。

 

こんな調子だから原付二種(自動車の普通免許で乗れる原付一種では二人乗りできないし、そもそも車の免許持ってない)の免許を取りたいなァと思っているのだが、どうやら他人よりも圧倒的にとろく運動神経が悪い私の運転に命を預けてくれる人なんていないらしい。親・友達等各方面から「お前が運転する車なんて絶対に乗りたくない」とのお言葉をいただいているのでバイクなどなおさら無理があるようだ。嗚呼。

 

いや、乗せてくれる人がいるなら喜んで乗せていただく。一度くらい自分で運転してみたいのだが、それがかなわないのなら後ろに乗りたい。アメリもアン王女も後ろに乗っている。私はあくまでも前がいいが、そもそも二人乗りバイクの運転手を務めるには後ろに乗ってくれる人がいないとだめなのだ。同乗者のめどは今のところ立っていない。これが一番悲惨な気がしなくもない。

 

いずれにせよ風を切って走るのはきっと楽しいだろう。元来爆走願望があるので、免許を取る日が来たら深夜の首都高、都心環状線を真っ赤なイタリア車でぶっ飛ばしたい。時代が時代ならもしかしたらバラと蝶と牡丹の刺繍が入った黒い特攻服で飛ばしていたかも。後ろでいいんなら「製鉄天使」のスミレちゃんみたいにレディース総長のバイクに乗っていたかも。

 

実は後ろに乗れそうな機会があった。高校二年生のバレンタインデーに地元の同級生に偶然再会して、高校を辞めてすでに社会に出ていた彼が自分のバイクの話を振ってきたのだ。バレンタインだったのをはっきり覚えている。何気なくバイクかっこいいね、みたいなことを話していたら今度乗せてあげるって言われたのを記憶している。自分の周りにバイク乗りはいないので、あの時乗せてもらえばよかったなぁと何となく後悔している。しかしながらピュアで真面目なセブンティーン、断ったのはしょうがない。自分の周りにいた男の子といえば秀才型の心が弱そうな人ばかりだったので、同い年とは思えない自立感、年上感に若干圧倒されていたのだ。今だったら二つ返事で乗せてもらいました。ええ。

 

ともかくも私の夢はサブカル中央線カップルでスーパーカブの二人乗りをすることです。ご承知おきください。